犬や猫が高齢化するに従って増えてきた腫瘍疾患。皮膚のイボから体の中のがんまで。発見・検査・治療をトータルで考える必要があります。当院では開院直後から日本小動物がん学会の2種認定資格を取得し、腫瘍治療の力を入れています。
犬や猫が長寿になるに従い、腫瘍疾患の発生は増加傾向にあります。動物の保険会社「アニコム損保」のデータによれば、4歳から12歳の犬で最も多い死亡原因は腫瘍疾患だそうです。
腫瘍といっても大きく生活の質や寿命を脅かす悪性腫瘍と、そうではない良性腫瘍があります。また悪性腫瘍と言っても進行が早くコントロールが難しいものと、適切な治療によりそれなりのコントロールができるものがあります。それらを見極めるためには「診断」の段階が重要です。腫瘍は体の様々な部位にできます。
体の表面にできるものが最も発見されやすくご家族が気づいて来院されることも多いのですが、他にもレントゲン検査や超音波検査、血液検査で初めて見つかるということもあります。ご家族がしこりを見つけて来院される場合は、そのしこりが正常なものか異常なものか、異常なものであれば「腫瘍」なのか「腫瘍ではないしこり」なのか、腫瘍であれば「良性」か「悪性」か、悪性腫瘍であれば「何なのか」「どういう治療が最適なのか」を調べます。
残念ながら見ただけで診断がつけられることはほとんどなく、「前からあったけど大丈夫と言われて様子を見ていたら...」という治療が必要な腫瘍の子の来院も結構あります。
どんな腫瘍でも、最終的にはその一部を採って検査をする「生検」ということが行われます。針先程度の材料で行う「針生検」で診断が付く場合もあれば、一部、あるいは全体を採って検査をすする「組織生検」が必要な場合もあります。健康診断や手術前検査といった特にご家族が異常に気づかれていない場合の検査、または体調不良の原因を調べていてしこりが見つかった場合も、原則上記と同じように最終的には生検に基づいて診断が行われます。
主に手術を行うことで腫瘍を摘出します。
腫瘍が一つの塊状に存在する場合、最も効率よくその腫瘍を排除することができ、その他の正常な部位にはあまり負担をかけません。
腫瘍の種類、場所等によって、一度の手術で完全な排除が可能な「根治手術」や、根治は期待できないが腫瘍を縮小して現在起きている症状を軽減したり他の治療と組み合わせてより根治を目指すための「減容積手術」があります。
良性の腫瘍の場合はしこりの周辺をそれほど大きく手術しなくて済む場合もあり、小さな皮膚のしこりであれば局所麻酔で蒸散あるいは切除が可能な場合もあります。しかし悪性腫瘍の場合にはしこりの周辺の正常な組織を場合によっては数cm余裕を持って一緒に切除しますので、1cm程度のしこりであったとしても手術する範囲は想像よりも広くなる場合が多々あります。そのため場所によっては(顔や足先など)小さなものでも手術に苦慮する場合があります。
腫瘍の種類、大きさ、場所などにより、より専門的なスタッフ・機材のもとでの手術が必要と判断された場合には大学病院など適した施設をご紹介いたします。
腫瘍の成長を遅らせたり、小さくしたりするために放射線を使用する治療法です。
腫瘍が狭い範囲に限られている場合に単独、あるいは他の治療と組み合わせて実施されます。外科的な摘出が難しい場合や、摘出で小さくした部位に行う場合もあります。手術で摘出するのとは違い、凝りのある部位の機能や携帯をある程度温存させられるメリットがありますが、周囲の正常組織もある程度影響を受けます。
放射線治療に必要な装置は特殊なため大学病院での実施になります。必要に応じてご紹介させていただきます。
悪性腫瘍が広範囲に広がっている場合や、しこりが限局的でも転移の可能性が高い悪性腫瘍の場合には、手術や放射線と言った局所の治療だけでは根治が難しく、抗がん剤の投与が検討されます。
抗がん剤はほとんどのものが全身に影響するので、多かれ少なかれ副作用を伴います。そのため、抗がん剤を投与する「メリット」と「デメリット」を的確に見極めて「メリットのほうが大きい」と判断した場合に限り投与をしなければなりません。また一口に抗がん剤と言ってもその種類は多岐にわたり、悪性腫瘍の種類によって効果が期待できる場合と効果が期待できない場合があります。そのためにも的確な「診断」が行われている必要があります。
抗がん剤というと「それだけは絶対に嫌だ」というご家族も多くいらっしゃいます。抗がん剤のイメージが人の医療で行われる場合のイメージが強いからだと思われます(中にはドラマなどの影響が強い場合もあります)。犬や猫に行われる抗がん剤は、使う薬は人の医療のものとほぼ変わりませんが、使う量や頻度が大きく異なります。基本的には長期間の入院を必要としたり、長く副作用と戦い続けたりといったことがないように組み立てられます。腫瘍の種類、使う抗がん剤の種類や投与経路、頻度などにより当院で実施する場合と大学病院など専門施設で実施する場合があります。
その他の治療には「免疫療法」「温熱療法」「緩和療法」などがあります。
「免疫療法」には「活性化リンパ球療法」のように人医療では比較的メジャーになっているものもありますが、残念ながら犬や猫に行われるものは人医療に行われるものと比べて不完全な部分が多く、きちんとした治療として確立していません。血液成分を培養して体内に戻すため、厳密な管理(感染や培養効果の確認、適切な培養や体内への投与時期)が欠かせません。
「温熱療法」はがんのしこりにレーザー治療装置の探触子を差し込んで中から加熱し、がん細胞を死滅する方法です。実施できる腫瘍の種類や大きさ、部位、治療目的によって選択される場合もあります。
「緩和療法」は、治療そのものの治療を積極的に行うと言うよりは、それに伴う苦痛や症状を和らげるために出来るだけのことをしてあげるものです。痛みや消化器症状を軽減することで、残された時間をご家族といかに楽しく過ごすかを考えます。
がんの原因として考えられるものはたくさんありますが、よく言われているものには次のようなものがあります。
がんの種類によっては特定の犬種、あるいは特定の家系に多く見られるものもあります。犬種による腫瘍罹患率がアニコム損保から発表されています。また「陰睾」のように遺伝する先天性疾患により腫瘍の発生率が高くなるものもあります。
煙草の煙(副流煙・受動喫煙)による悪性腫瘍、日光(紫外線)による皮膚腫瘍などが知られています。
乳腺の腫瘍や肛門周囲腺腫、精巣腫瘍など、不妊手術によって発生が抑えられる腫瘍があり、ホルモンの影響が考えられています。
猫では猫白血病ウイルス(FeLV)、猫免疫不全ウイルス(猫エイズ:FIV)、猫伝染性腹膜炎ウイルス(FIP)などで腫瘍の発生が増えると考えられています。
食べ物の影響で腫瘍ができるとか、特定の物を食べていたらがんにならないといったことはありませんが、「栄養バランスのいいものを」「適切な量」食べることが大切です。少なくとも「総合栄養食」と書かれているものを選んであげてください。フード以外のおやつ類をあげすぎないことも大切です。
手作り食は原則おすすめしません。人間のイメージする手作り食を犬や猫にあげると栄養の過不足が大きすぎます。どんなフードでも、開封後時間の経ったものや保存状態の悪いものは体によくありません。購入の際にはそうしたこともきちんと確認して購入するようにしましょう。
特定の目的を持ったフード(使役犬用のものや尿路結石予防用など)は本当にそのごはんが必要かどうかを確認してからあげるようにし、定期的に健康診断を受けることをおすすめします。人間では肥満によりがんのリスクが高くなることが分かっています。報告によってはがんの原因の1/3が肥満と関連していたとされていて、これは喫煙のリスクよりも高かったそうです。
がんには早期発見が必要...ということはわかっていても、具体的にどのようにすればいいのでしょう。
がんはどこにでもできます。体の表面にできるものは、ご自宅で触って見つけて来院されることが最も多く、スキンシップをしっかりしてあげることが早期発見に繋がります。
意外と口の中は見逃されることが多いですが、ご自宅で歯磨きをされていると発見が早く、また磨いた際の違和感などから「おかしいな?」と気づいてもらえることが多いようです。
食欲に変化が出る(食べるスピードが遅くなる、残すなど)と、ついついなにか混ぜて食べさせたり、食事の種類を変えたりして様子を見てしまう方が多いようですが、 原則として犬や猫が「ずっと食べていたものに飽きる」ということはありません。食欲の低下により食べが悪くなっていることが多く、その原因を追求する必要があります。目新しいものを上げるととりあえず食べるようになって安心してしまい来院が遅れるということがよくあります。
体内(胸腔内・腹腔内)の腫瘍は症状が出るまで外見から見つけることは難しく、実際に健診や他の症状に対する検査の際に偶発的に見つかることも多く見られます。やはり定期的な健診(身体検査・血液検査・画像検査)は有効です。7歳までは年1回、それを超えたら年2回程度の健診をおすすめします(人の1年は小型犬や猫では約3ヶ月に相当します。半年に1回の健診は、人間が2年に1回健診を受けているのと同程度の間隔です)。
皮膚疾患(外耳炎を含む)は犬が動物病院を受診する理由では1、2を争います。それだけ皮膚病を患っている子が多いということです。皮膚病の原因は多岐に渡り、簡単には治らず長期的に、時には生涯に渡りコントロールをしていなかければなりません。適切な皮膚の検査、投薬治療だけでなく、スキンケアにも力を入れています。
皮膚疾患診療のもくじ
皮膚病は主に皮膚のかゆみ、脱毛、フケや臭いなど、ご家族が気づいて連れてこられる場合がほとんどです。
皮膚病の原因はアレルギーやアトピー、寄生虫、マラセチアなどの酵母、真菌、といったものから、場合によっては全身疾患の症状の一つとして皮膚の異常が見られる場合もあります。
近年は多くの犬の皮膚病にアトピーが関与していると考えられます。アトピーは皮膚の構造上の問題で残念ながら治ることのない病気ですが、皮膚の状態を改善して痒みの少ない生活を送ることは十分可能です。皮膚疾患診療のポイントは、「きちんと完治する皮膚の病気」「完治せずコントロールを考えなければならない皮膚の病気」「皮膚病に見えるけど実は全身疾患の症状の一つが皮膚」といったものをきちんと鑑別して、適切な治療・管理を行っていくことです。
「痒いからかゆみ止め」という対応はもうやめませんか?
皮膚病の診断はまずその皮膚の状態をよく観察するところから始まります。
同じような「赤くて痒い」状態であっても様々な原因が考えられますから、見た目の状態にヒントがないかを考えながら観察します。また、皮膚だけではなく全身状態に問題がないかどうか、生活環境に原因がないかどうか、普段の生活の中に皮膚に問題を起こすようなものがないかどうかをご家族に伺います。
皮膚は体の一番表面で常に外界に触れる場所ですから、ちょっとした生活環境の変化...季節、散歩コース、使っているシャンプー、寝ているクッション...などの違いも実は皮膚への刺激になる場合があります。
その次に行うのは、実際の皮膚の表面の観察です。 皮膚の表面〜中を顕微鏡で観察します。そのために皮膚の表面をテープで採材したり、掻き取ったり、場合によっては皮膚の一部を切り取って組織検査をしたりします。皮膚の状態や体の様子によっては、血液検査で全身の状態のチェックをしなければならないこともあります。皮膚がかゆい原因が一度ではっきりするといいのですが、幾つもの原因が重なっていたりする場合は治療をしながらこうした検査を何度もやって、1つずつ原因を解明していく必要があります。
皮膚病の治療で重要なのは「今のかゆみを和らげる」ことはもちろんですが、「生涯に渡りできるだけ痒くならないようにしてあげる」ことです。
痒いからと安易にかゆみ止めの投与だけしているとその間に皮膚の状態はどんどん悪化し、数年後にはかゆみ止めを使ってもコントロールが難しくなってしまう場合もあります。またかゆみ止めとして使われることの多いステロイド剤をは使いようによっては副作用が強くでてしまいます。数年後も見据えた皮膚の状態改善を目指す必要があります。
皮膚の治療の柱はスキンケアです。人間でもスキンケアが重要視されるのと同じです。
犬や猫のスキンケアは、ブラッシング、シャンプー、クレンジング、保湿など、皮膚のバリア機能を回復することを目的としています。
必要とするスキンケアはその子その子の皮膚の状態によって変わります。
皮膚病は見た目にも「赤い」「痒い」などわかりやすいためか、病院ではなくペットショップやサロン、ホームセンターなどで「このフードがいいですよ」「このシャンプーで洗ってみて」「このサプリメントが良いですよ」などと色々勧められて試している方が多いようです。しかし、同じ「赤い」「痒い」でも様々な原因があります。見た目に異常が見られている状態は「かなり悪い状態」と考えていただき、早めに病院を受診してください。
悪化してしまってからでは改善するまでにも時間がかかってしまいます。
人と同様犬や猫も口腔内環境を良好に保つことが健康寿命を伸ばすために有効ということが分かってきました。歳をとった時に歯が悪いことが命に関わる病気を引き起こしたり、寿命を縮めたりします。それを避けるためには「悪くなってからなんとかする」のではなく「悪くならないように」普段から計画的にケアをしてあげる必要があります。
愛犬・愛猫の口の中をじっくり見たことがありますか? 自分で歯磨きをしない犬や猫では、歯石の付着とそれに伴う歯周病が非常に多く見られます。しかし「歯が痛い」という症状は出づらく、意識して見ないとなかなかその状況に気づくことができません。
「口を気にしている」「口の匂いが臭い」となったときにはかなり進行してしまっていることがほとんどです。
見た目に違和感が生じているときはかなりの痛みを伴っている事が多いですし、人間が匂いが気になるくらいであれば当の本人(犬・猫)は相当臭い思いをしているでしょう。それに加えて歯肉や顎骨の違和感、口の中で細菌が増殖することによる様々な問題が近年では指摘されています。
残念ながら犬や猫では「家では口の中を見ることもできない」というような子が時々いらっしゃいます。そうなると病院で口の中をきちんとチェックすることもむつかしい...という事になってしまいます。ですから、口の中の違和感が出る前、できれば成長期のうちから口の中のチェックや歯磨きにならしておくことをおすすめします。歯磨きだけでコントロールが難しい場合は様々な歯周病ケアグッズがありますのでご相談下さい。
犬では虫歯の発生はほとんどありませんが、歯石の付着と歯を支える歯周組織の病気は人と同じかそれ以上に多く見られます。
歯周病は歯肉炎とその周囲まで炎症の及んだ歯周炎を合わせての病名です。きちんと口の手入れができない犬の90%が1歳から歯周病が始まっていると言われています。
歯周病を管理するために、口の中は若いうちから定期的に病院でチェックをしましょう。歯石がつき始めて、それでもまだ歯肉に問題がでていない早期の段階でみつけ、定期的に歯石の除去をしておくのが理想です。
全身麻酔下でのきちんとした歯のクリーニングは、口腔内の状態を長く改善するためには非常に有効です。この段階の処置は痛みも少なく、歯肉のダメージも少ないため、全身麻酔の時間も短く、体長の変化も少なくて済みます。歯石のつきやすさやご家庭での手入れの出来具合によって1〜数年に一度程度の処置をおすすめします。
歯肉炎を放置しておくと炎症が進行し、歯肉と歯の間にポケット状の溝ができ、この溝に歯垢とともに細菌が侵入し、蓄積・増殖するため歯垢や膿がたまってさらに溝が深くなって「歯周病」になっていきます。
歯周病がさらに進行すると、歯の根元から顎の骨までが侵されて様々な問題が生じます。
歯の根元に炎症が起こって膿汁がたまると、歯槽骨や顎骨が破壊・吸収され、歯肉や皮膚に穴が開いて膿を排出するようになります。目の下が突然腫れたようになり、その部分の皮膚が破れて出血と排膿が見られます。また上顎の犬歯が侵された場合、口腔から鼻へつながり、鼻汁が止まらなくなったりくしゃみが出たりするようになります。増殖した細菌の作り出す毒素により歯の根元の歯槽骨が溶けて骨折の原因になったり、血流に乗った細菌や毒素により心臓・腎臓などの離れた臓器に問題を起こしたりします。
歯周病は口腔内だけの問題ではなく、全身の健康にも影響します。ヒトにおいては、口腔ケアを行うことで肺炎の発症を抑えることができ、手術前に歯周病治療や歯石除去をしておくと術後の肺炎リスクが4分の1に低下することがわかっています。また、残っている歯の本数が少ない人ほど肺がんや胃がん、脳梗塞、糖尿病の発症リスクが高くなり、20本未満の人は20本以上残っている人と比べて認知症になる確率が約2倍に上がることも報告されています。さらに、歯周病はウイルスへの抵抗力を低下させ、インフルエンザを重症化させたりエイズ発症の引き金になる場合もあります。加えて、歯周病患者はがんの発症率も高く、一日2回以上歯磨きをする人は1回の人に比べてがんの発症が3割少ないとされています。
犬においても歯周病は全身疾患と関連があり、特に歯周病の有無やその重症度が腎臓病の発症と密接に関わっていることが明らかになっています。
当院では、多くの歯科処置の症例が来院します。
普段から当院に掛かられている方には、できるだけ適切な時期に口腔内の処置をして、 口腔内衛生を良好に保っておく事は生涯を通しての健康維持するために大切と言うご説明をさせていただいています。その結果、数年に一度の歯科処置をして良好な状態を保っている子が沢山います。その一方で、麻酔が怖いから、あるいは費用の問題できちんとした処置を受けさせてあげられない場合もあります。例えば、長期間歯周病を放置してしまい進行したために、顎の骨が折れてしまったという子をたくさん見てきました。
ひどい場合は無麻酔での処置の最中に折れてしまったような子もいました。あるいは、無麻酔での歯科処置を受けてきたと言う子の場合は、それから数年後、 顎の骨が溶けてしまい口から鼻にかけて大きな穴が開いてしまい鼻血が止まらなくなってしまった、といった子もいます。結局歳をとってから、全身麻酔をしてその穴を塞がなければならないですし、それをしても溶けてしまった顎の骨が治るわけではありません。
もっと早い時期に安全に適切に処置をしてあげられたのにその機会が失われてしまったのです。
安い病院で処置をしてきたと言う子の場合は、抜かなければならない歯が抜かれないままになっていたり、 残念ながらせっかく麻酔をかけて処置をしたのに適切な処置が受けられていないと言う場合もありました。
心臓が悪く、もうこれを最後の麻酔にしたいと思って処置をうけた、と言って来院した子の口を見ると、 抜がなければならない状態の歯が抜かれないままになっていて近い将来また処置が必要になりそうな子もいます。動物の口の中の処置に麻酔が必要なのは、残念ながら仕方がないことです。麻酔のリスクはゼロではありませんが、押さえつけて嫌なことを長時間かけて実施する負担のほうがずっと大きい場合もあります。そしてさらに、せっかくそんな嫌な思いをしても肝心な歯周病の治療としては十分なことをしてあげられていないと言う事になってしまっています。
歯周病治療に重要な事は、表からは見えない歯の根元、顎の骨のことを考えた治療する必要があることです。単に見た目の歯石が取れたり、一時的に臭いが減ることが歯周病の治療ではありません。そして、重症になればなるほど、処置には時間がかかりますし痛みが伴います。それをコントロールするための麻酔にも技術が必要になります。処置にかかる費用はこうした痛みを取り除いたり安全に麻酔をしたりするための費用でもあります。 安ければ良いというものではないと思います。
口の中は麻酔をかけないと見えない場所もあります。その部分の処置についてはなかなかご家族が判断することは難しい場所です。「なんとなく麻酔が不安だから」と言う理由で必要な処置を受けられず、結局後から大変な思いをするのはその子やご家族です。目先の安心感や費用にとらわれず、一生を通した長いスパンでその子の健康を考えてあげたいと思いませんか?口の臭いや、歯の色が気になったら、様子を見すぎず早めにご相談ください。歯を抜かなければならないほどひどくなる前に、負担の少ない処置で良い状態を保つことを考えることができますよ。
犬・猫の乳歯は一般的に生後6~7ヶ月までに永久歯に生え変わります。
永久歯が萌出していても乳歯が抜けずに併存している状態を乳歯遺残と言います。
乳歯遺残はマルチーズ・トイ・プードル・ヨークシャーテリア・ポメラニアンなどの小型犬に多く、主に上顎犬歯や下顎犬歯に発生します。
乳歯と永久歯の併存が長期間に及ぶと不正咬合や歯周病の原因になるため、早期に乳歯抜歯を行います。乳歯が破損している場合、永久歯に感染が及ぶため、早期の抜歯が必要になります。
猫の口内炎は歯石やカリシウイルス感染症、猫白血病ウイルス・ネコ免疫不全ウイルスによる免疫抑制状態など様々な原因により起こります。
純血種に好発傾向があると言われていますが、悪化すると、唾液が多い、口臭がひどい、痛みでものが食べられないなどの症状が出ることがあります。
治療は、抗生物質やスケ―リング(歯石除去)、抜歯などを行いますが、反応率は個体により様々で、改善が無い場合は長期的に投薬が必要になる場合があります。
プロフェッショナルケアに必要な麻酔の頻度を減らしてあげられるかどうかは、ご自宅でのホームケアの成否にかかっています。
理想的なホームケアは歯ブラシを使って隅々まで歯を磨いてあげること。これができると数年間プロフェッショナルケアの効果を維持することも可能です。歯磨きガムや舐めさせたり塗ったりするような口腔ケアグッズが山のようにありますが、それらはあくまで歯磨きの補助的な効果程度のものです。
歯磨きは一日1回、してあげたいですね。
専用の器具を用いて、口の中の隅々を評価し、治療します。
①肉眼的評価:犬で42本、猫で30本ある歯だけでなく、歯肉、口腔内の粘膜、舌、喉の奥の見えるところまでをよく観察して評価します。
②歯科用レントゲンを用いた、歯の根元と顎の骨の評価:見た目に問題のない歯でも、レントゲン検査で問題が見つかることも多く、歯周病ケアには欠かせない検査です。
③プローブを使った歯周組織の評価:歯の周囲、歯肉との境目(歯周ポケット)の評価を行うため、専用の器具を用いて歯を一本一本チェックします。
④上記②と③の評価で抜歯が必要と判断した歯は抜歯を行います。抜歯をしたあとの歯茎の穴(抜歯窩)は、壊死した組織やだめになった顎の骨をきれいに取り除き、縫合して塞ぎます。
⑤歯石を超音波スケーラーで除去します。取り残しがないように拡大鏡を用い、歯垢染色液を用いた確認をしながら徹底的に取り除きます。
⑥歯周ポケット内をきれいにするためのキュレッタージを行います。これにより広がってしまった歯周ポケットをできるだけ元の状態に近づけます。
⑦歯石の再付着を少しでも遅らせるため、歯の表面を研磨します。
これらの処置は時間がかかる上、口を大きく開ける必要があったり、歯肉周辺の処置は不快感を伴ったりするため、全身麻酔がなければ行うことはできません。しかし、ここまでやらなければ歯周病の治療をしたとは言えません。またここまでやったとしても、ご家庭でのホームケアがきちんとできなければすぐにまた歯周病になってしまいます。
プロフェッショナルケアは年1回程度(その子その子の歯周病の進行の速さやご自宅でのホームケアの程度によっては間隔を伸ばしてあげることができます)をおすすめします。
これはペットショップやトリミングサロン、一部の動物病院で行われているようです。
見える範囲の歯石を可能な範囲で取り除く行為は美容であって医療ではありません。むしろ無理をすることで歯茎や歯を必要以上に傷つけて悪化させることもあります。またこの処置を行ったあとからご家族に口を触らせなくなってしまったという子もいますので、当院では推奨しておりません。
心臓も腎臓も肝臓も、大切な体の機能を維持することができなければそれが寿命です。健康でいるためには体の状態を適切に把握し、必要に応じた治療を行い、治るものは治す、治らないものも問題ができるだけ起きないようにコントロールすることで寿命を最大限伸ばすことができます。当院では様々な内科疾患の検査・治療に力を入れています。
嘔吐や下痢と言った比較的わかりやすい症状や「消化できないものを食べてしまった」といった事件から、肝・胆道疾患や膵臓によるものまで、消化器疾患といっても幅が広く簡単ではありません。腫瘍や免疫疾患が原因ということもあります。身体検査、糞便検査、血液検査やレントゲン検査・超音波検査など、各種の検査を必要に応じて組み合わせて診断を進めます。
ご自宅で比較的わかりやすい症状はこれではないでしょうか。
嘔吐や下痢が見られた場合は、その前になにか変わったものを食べていないか、どこかへ連れて行っていないかなどを確認してください。様々な疾患の最初の症状が嘔吐・下痢ということが多く、消化器疾患以外の病気で症状が出ている場合もあります。そのため嘔吐・下痢の他に元気がない、ぐったりしているなど具合が非常に悪い場合はすぐに病院へ連絡してください。夜間であれば夜間病院の受診も考えるべき症状です。何れにせよあまり様子を見ずに早めに病院を受診することをおすすめします。
消化器症状がでていても、とりあえず食事をあげてみたりおやつをあげてみたりするご家族が多いのですが、消化器症状の診断をする上では血液検査やレントゲン検査、 超音波検査をする場合も多く、胃袋が空じゃないときちんとした評価が難しい場合があります。少なくとも病院を受診する前数時間は食事をあげないようにしてください。
食べてはいけないものを食べてしまって病院を受診する子がたくさんいます。
石、消しゴム、紐、おもちゃ、中には釣り針や串、アイスの棒などもあります。 石や消しゴム、釣り針はレントゲン写真で写ることがほとんどで、本当に食べたのか、今どこにあるかがわかりやすいのですが、紐やおもちゃ、串などは残念ながらレントゲン写真に写りません。 超音波検査で見つかる場合もありますが、それが難しい場合もあります。
「食べるところを目撃した」という場合は内視鏡や開腹手術で探す場合もあります。「置いてあったものがなくなっている」という場合が一番難しく、意外と帰宅して落ち着いて探したら見つかった...などということもあります。とにかく「危ないものは届くところに置かない」のが基本です。
近年増えている胆道疾患は、現在では胆泥症が見つかった時点でこまめなチェックを行い、胆嚢内での状態の変化や肝臓へのダメージの度合いを見た上で手術適期を見極めて治療をするのがいいとされています。胆嚢閉塞など致命的な疾患になると手術での救命率も低くなるため、そうなる前にいかに治療をしておくかが大切です。
膵臓は様々な原因で「膵炎」を起こします。食事が原因のことが多いようですが、はっきり原因がわからないことも多々あります。膵臓疾患から起こる消化器症状は激しいことが多く、犬でも猫でも治療には苦慮します。更に一度落ち着いたあとに再発することもあるため、生涯を通じて適切に管理できるかどうかが大切です。
心臓病は末期になるまでほとんど症状が出ませんが、症状が出たときにはすでに末期ということになります。でも「心臓の音の異常」が見られるのはそれよりずっと前の段階です。
「最近疲れやすい」「歳のせいか寝ている事が増えた」「以前は走り回っていたけどあまり走らない」といったものが循環器疾患の症状の一つということもあります。
次のような症状がはじめに現れます。
さらに進行すると、次のような症状が現れ始めます。
となり、最後の最後には苦しくて伏せることも寝ることもできなくなったり、突然死(本当は症状が出ていたはずなので突然ではないはずですが...)したりします。
一番最初に心臓疾患で異常が見つかるのは、犬では「心臓の聴診」です。犬の心臓疾患ではほとんどで心雑音が聴取されるため、定期的に病院で心臓の音を聞かせてもらうだけで心臓疾患のチェックができます。猫では犬ほど心音の異常は出ないものの、それでも聴診で異常が見つかることは多いので、やはり病院でのチェックが有用です。
心雑音が聴取されたら、次に行うべきはこれらの画像診断です。
犬で最も多く見られる僧帽弁閉鎖不全症では、雑音が聴取されるだけですぐに治療をする必要はありませんが、「心臓が大きくなってきたら」治療を開始する必要があります。「心臓が大きくなってきたかどうか」を最も正確に評価するためには、「大きくなる前の心臓の大きさ」がきちんとわかっている必要があります。普段の健診で心臓の評価をしていればそれを基準に、していなければ雑音が聴取されたら出来るだけ早くこれらの検査を行って、ベースとなる心臓の大きさの評価をしておくことをおすすめします。
不整脈が聴取される場合には心電図の評価を行う場合もあります。
レントゲン検査や超音波検査で心臓の評価ができない場合(心臓の病態、落ち着いて検査ができない、その他の原因で)には、心臓マーカー検査をすることで、心臓や心筋の状態を数値化して評価できる場合があります。また、心臓が全身の臓器に影響を及ぼしていないかのチェック、心臓の治療を始める上では使用するお薬の決定や経過のチェックにも血液検査が行われます。
犬で最もよくみられる疾患です。
初期には心臓の音に異常が混ざる「心雑音」が聴取されます。これは「僧帽弁」の閉まりが悪くなり、弁の隙間から血液が逆流することで起こります。
一度弁に隙間ができると徐々に広がり、それに伴って血液を送り出す能力が低下します。これは放っておいて治ることは絶対にありません。
治療は弁を人工弁に付け替える外科的な方法と、心臓の負担を減らして心臓が長持ちするようにする内科的な方法があります。残念ながらまだ外科的な方法は一般的ではなく、内科的な方法が選択されることがほとんどです。しかし犬の寿命を考えると、内科的な治療で数年単位の効果が期待できれば十分に寿命を全うできるとも言えます。
この病気はゆっくり、でも着実に進行していくため、「心雑音が聴取された」ときからきちんと経過を追っていく必要があります。「見た目の症状が出てからなんとかしよう」と思っていると、心臓疾患の末期まで進むことになってしまいます。症状が出る前にコントロールするべき病気です。
猫は心臓が悪くなると「あまり動かなく」なり、歳のせいで寝ていることが増えた...という印象を持たれることがおおく、こちらも犬の僧帽弁閉鎖不全症と同様ご家族に気づいていただきづらい病気です。その他には遊んだり排便したりしたあとに肩で息をする様な荒い呼吸をする場合もあります。
猫の心筋症は必ずしも聴診でわかるとは限らないのですが、それでも聴診で異常がみられることは多く、健診やワクチン時に見つかる場合もあります。
猫の心筋症の原因には甲状腺機能亢進症という内分泌疾患が関与していることがあり、定期的な血液検査でそちらが先に見つかる場合もあります。心筋症は進行すると呼吸困難や後肢の麻痺、突然死を起こすこともある怖い病気です。そうなってしまうと治療が困難なので、やはり早く見つけて適切に管理して上げる必要がある病気です。
血液の構成成分は主に赤血球、白血球、血小板です。これらは常に新しく作られ、古いものと入れ替わっています。様々な病態でこれらのが増えたり減ったりします。その中には血液疾患以外が原因の場合もあるため、それらとの鑑別診断が重要になります。
赤血球でよくみられるのは貧血です。 これは血液中の赤血球が減って問題を起こすもので、原因は多岐にわたります。
腫瘍性疾患、免疫介在性疾患などでみられることが多いですが、骨髄の異常で減る場合もありますし、 ホルモンバランスの異常でも貧血が起こる場合があります。進行が早く貧血が深刻な場合は命に関わります。逆に赤血球が異常に増える多血症という病気も稀ですがあります。
白血球も増えたり減ったりします。 白血球は細菌感染などに伴って生理的に増えることが多いですが、白血病などの腫瘍性疾患で増加することもあります。
異常な値がみられたらまずは原因をきちんと探す必要があります。白血球はその成分が「好中球」「リンパ球」「単球」「好酸球」「好塩基球」に分けられ、どれが増えているか・減っているかによって病態を考えることが可能です。この分類は血液を顕微鏡で観察して行う必要があり手間と時間がかかるため省略されがちですが、当院では大切な検査と考えてすべての血液検査で実施しています。
血小板の異常としてよくみられるのは、免疫介在性血小板減少症と播種性血管内凝固症候群です。
免疫介在性血小板減少症は病的に血小板が減少するため、ちょっとしたことで皮下出血が起こり・青アザができます。大きな怪我などで出血すると、血が止まりにくいため問題が生じる可能性があります。
播種性血管内凝固症候群は、腫瘍や感染性疾患などの病気により体の状態が悪化し、血管内での血液凝固が更新した状態です。血小板がどんどん消費され、結果的に検査上の血小板数が減少します。播種性血管内凝固症候群は多臓器不全から死に至る大変危険な状態で、こうなってしまうと救命が難しくなります。
発作や痙攣を起こすものから、歩き方の異常、行動の異常など様々な症状がみられます。
神経系の疾患では詳しい検査としてCTやMRI検査が必要になる場合があります。これらの検査が必要な場合は実施可能な高度医療施設をご紹介いたします。
後肢のふらつきや抱き上げるときに痛がって声をあげるといった症状が見られます。
なりやすい犬種もありますが、生活環境、食生活を適切にしてあげることでできるだけなりにくくしてあげることはできます。なってしまった場合は安静、痛み止めやレーザー治療といった内科治療で改善が見られる場合もありますが、内科的な治療に反応がない場合やより重度な場合、繰り返す場合にはCT・MRI検査や手術が必要になります。
発作やふらつきを起こす疾患で、一般的に言われる「てんかん」には、もともとの体質的なものである「特発性てんかん」と、何らかの原因があって起こる「二次性てんかん」があります。
年齢や動物種、発作の起こり方などから病気を絞り込み、「二次性てんかん」が疑われる場合には血液検査やCT・MRI検査が必要になります。発作を繰り返したり発作が長時間続くことで病状が悪化するため、ある程度以上の頻度で発作が起こる場合は原因が特定できなくても発作頻度をコントロールする必要があります。
平衡感覚に異常が生じて首が傾いてまっすぐ歩けなくなったり、立つことができなくなったりします。外耳炎、腫瘍などの原因がある場合もありますし、特発性という原因のわからないものもあります。
犬も猫も寿命が長くなり、認知症と考えられる症状がみられるようになっています。
認知症の始まりは、ちょっとした性格の変化や生活リズムの変化(朝寝ている時間が長くなるなど)のことが多いのですが、「歳だから」と気づいてもらえないことも多いようです。
実際にこれだけで「認知症」と診断することはできませんが、認知症の可能性を考えて対処してあげることで進行を遅らせたり、深刻な問題になりづらくしてあげることを考えます。進行すると「昼夜逆転」「夜泣き」をするようになり、近所からの苦情や家族が耐えられなくなって「なんとかしてくれ」と病院に駆け込んでくる場合もありますが、そうなってからできることは多くはありません。そうなる前にできることはいろいろありますから、高齢期に必要な健康管理をご相談ください。
高齢の犬や猫にみられる「腎臓の数値の上昇」は、実はずっと前から起こっていることが多く、また「加齢による悪化」と思われていたものが、腫瘍や結石などが原因となっている場合もあります。腎臓疾患は早期に発見できれば、原因を取り除くことで「治す」ことができる場合もあります。また、生活習慣の見直しや食事管理などから始め、段階に合わせた適切な治療を行うことで、長く良好な状態を保つことが可能です。
「悪くなってしまってどうしようもない」「皮下補液しかできない」という状態になる前に、早期発見のための定期検診や、原因を調べるための画像検査をきちんと行うことで、腎臓疾患の管理をより良くすることができます。
腎臓の働きは多岐にわたるため、当院では腎臓病の早期発見・適切な管理のために、尿検査や血圧測定を重視しています。
人間では尿管結石は激痛を伴うことが多いですが、犬や猫ではそれほど明確な症状が見られないこともあります。腎臓は二つあるため、片側だけに結石ができても、日常生活で異常に気づかないことがあります。そして、もう片方の腎臓に発症すると、突然腎機能が低下し、初めて体調の異常として認識されることになります。
腎結石・尿管結石は、多くの場合、画像検査でしか見つかりません。早期に発見できれば、内科的・外科的な対処で改善する場合もあります。
高齢になり血液検査をした際に腎臓の数値が上昇していた場合、加齢による腎機能低下だけでなく、腎臓腫瘍が原因となっていることもあります。腎臓にはいくつかの種類の腫瘍ができますが、多くは形や大きさの異常を伴うため、画像検査で異常が見つかることがあります。また、尿の変化として現れる場合もあります。
腎臓の腫瘍を放っておくと、腎機能が低下するだけでなく、周囲の臓器に浸潤し、さまざまな症状を引き起こす原因になります。そのため、できるだけ早く発見し、対処するようにしましょう。
食欲に変化が出る(食べるスピードが遅くなる、残すなど)と、ついついなにか混ぜて食べさせたり、食事の種類を変えたりして様子を見てしまう方が多いようですが、 原則として犬や猫が「ずっと食べていたものに飽きる」ということはありません。食欲の低下により食べが悪くなっていることが多く、その原因を追求する必要があります。目新しいものを上げるととりあえず食べるようになって安心してしまい来院が遅れるということがよくあります。
慢性腎臓病は、加齢に伴い腎臓の機能が低下する病気です。「腎臓の検査」というと血液検査をイメージするかもしれませんが、血液検査で「腎臓の数値が上昇」するのは慢性腎臓病が末期的な状態になったときです。それよりもずっと前から、何年もかけて慢性腎臓病は進行します。
血液検査で異常が分かったときには、すでにさまざまな症状が出ていたり、手遅れになっている場合もあるため、できるだけ早い段階で腎臓の異常を見つけ、適切に対処することが重要です。そのためには、尿検査や画像検査も組み合わせ、多方面から腎臓の状態を確認することが大切です。
軟部外科診療のもくじ
軟部外科は、骨や関節以外の部分に外科的な処置を行うものすべてをいいます。検査のために行うこともあれば治療のために行うこともありますが、犬や猫ではほとんどの場合全身麻酔を必要とします。
雄では「去勢手術」、雌では「避妊手術」などと呼ばれたりします。
昔は望まれない子犬・子猫を防ぐために行われましたが、現在では性ホルモンに関連した行動と疾患の予防を目的に行われることが多い手術です。手術により性格が穏やかになり、発情時と非発情時のムラがなくなります。
雄では前立腺肥大や会陰ヘルニア、精巣腫瘍が、雌では子宮蓄膿症や乳腺腫瘍、卵巣・膣の腫瘍の予防効果が期待できます(実施時期にもよります)。 特に雌の乳腺腫瘍は、初回発情が来る前に手術をすることで最大の予防効果が期待できることが分かっていますので、手術の実施時期は慎重に検討するべきです。
当院では去勢手術は精巣摘出を、避妊手術は卵巣・子宮摘出を原則として行っています。
「自然がいい」ということで不妊手術を希望されないご家族もいらっしゃいますが、 野生のイヌ科・ネコ科動物と違い家庭犬・家庭猫は寿命が伸び(この時点ですでに「自然」なことではありません)、発情回数が増えた結果(犬や猫では閉経することはありません)、性ホルモン関連疾患が多く見られます。
病気になった事も「自然なこと」と受け入れられるならいいのですが、そうなってからの治療は健康時に行う不妊手術よりもかなりリスクの高いものになることは知っておいてください。
子宮摘出を行っていない雌犬の子宮内に細菌感染を起こして膿が溜まる病気です。
ほとんどの場合、発情後1〜2ヶ月で症状が現れます。元気、食欲の低下や飲水量、尿量の増加、外陰部からの排膿、腹囲膨満などがよくみられる症状です。不妊手術をしていない犬が「調子が悪い」というときに真っ先に疑う病気です。
発情回数を繰り返すほど子宮内膜の過形成が進行し、細菌感染を起こしやすい状態になると言われています。体内に多量の細菌が貯まることは、体にとっては致死的な異常です。敗血症や多臓器不全の原因にもなります。進行すると全身の重大な異常を引き起こし、致死率の高い恐ろしい病気です。治療は原則手術による卵巣・子宮の摘出ですが、体の状態によっては麻酔・手術のリスクが非常に高くなるため、手術前の内科的な管理が重要になることもあります。
不妊手術をしていない雌犬・雌猫のご家族は、きちんと発情周期の記録を取るようにしてください。
胆嚢疾患は超音波検査の進歩によりごく初期から見つけることができるようになりました。
以前であれば胆嚢粘液嚢腫や胆嚢閉塞になって体調を崩して見つかったり治療を始めたりしていた疾患ですが、現在では検診によって早期に見つけ、経過を見て将来問題を生じる可能性が高くなった段階で手術によるコントロールを考慮します。進行すると肝臓の問題を生じることが多く、そこまで待ってから治療をするべきではありません。
胆嚢の手術をする場合は必ず肝臓の生検を実施します。実は肝臓側に問題があって胆嚢の問題が生じているということもあり、胆嚢摘出後肝臓のコントロールのために食事管理や投薬が必要になることも多く見られます。
脾臓は胃袋の横にある臓器で、血液の貯蔵、古くなった血液の処理などをしています。
加齢とともに腫瘤ができやすい場所です。脾臓に腫瘤が見つかった場合、悪性腫瘍の可能性が2/3と言われています。悪性腫瘍の場合も良性腫瘍あるいは結節性過形成の場合も、増大すると腹腔内出血の原因となります。
脾臓の腫瘤が見つかった場合、それが1cm程度を超える場合は摘出を検討します。腫瘤のみを摘出することは通常せず、脾臓全体を摘出します。
摘出した脾臓は病理検査を行い、腫瘤の原因を調べます。種類によっては追加治療が必要になる場合があります。
皮膚の腫瘤はご家族が見つけて来院することが多い病気です。良性の腫瘍や非腫瘍性の腫瘤から、悪性腫瘍まで、様々なものが皮膚にできます。
皮膚の腫瘤に対して最初のアプローチは針生検。細い針を刺して中の細胞を採取し、顕微鏡で観察して評価します。 針生検によって診断がつくものと、診断はつかないものの良性/悪性の判断ができるもの、全く評価できないものがあります。ある程度評価できるものであれば、それをもとに対処法を考えます。良性のもので小さく、できている場所が特に問題ない場合は経過観察をする場合もあります。大きくなってきたり気にしてなめたりする場合は切除・摘出を検討します。悪性が疑われる場合は、腫瘤の周囲に数cmのマージンをつけて切除することが推奨されます。腫瘤が2cm程度でも、マージンをつけると6〜10cm程度の切除が必要になるため、場所によってはそれが難しい場合もあります(頭や四肢など)
切除した腫瘤は病理組織検査をして、針生検での評価が正しかったかどうか、問題なく切除できているかなどを評価します。
皮膚腫瘤の大きさ、形状、針生検結果によっては、レーザーメスを用いた蒸散により全身麻酔なしに腫瘤の処理をすることもできます。高齢で全身麻酔が難しい場合などにはこうした処置で体に負担をかけない治療を行う場合もあります。
運動器疾患診療のもくじ
運動器疾患は、骨や関節、筋肉に関連する疾患です。手術を必要とするものだけでなく、内科的な管理を行う疾患も含まれます。
骨折や脱臼は手術を必要とするものも多くありますが、加齢性変化である変形性関節症や変形性脊椎症は適切な慢性管理を行えば手術が必要ない場合も多く、リュウマチや免疫介在性関節炎のように積極的な内科的管理が必要な疾患もあります。
室内で過ごす子が大多数を占める現在は骨折で来院する子は少なくなりました。
多いのは足の細いトイ・プードルやイタリアン・グレーハウンドなどの若い子が落下あるいは過剰なソファーなど段差の上り下りが原因で前足の骨を折ってしまうことです。また足を引っ掛けた際に指の骨を折る子も時々見られます。時には歯周病から顎の骨の骨折をしたり、骨の腫瘍で太い骨が折れてしまったりといった特殊な例もあります。治療は骨折部位、折れ方、年齢、性格などから適切な方法を選択します。治療には大きく分けて以下の方法があります。
成長期に大腿骨頭への血流が阻害されることで骨頭の形成が悪く、痛みが出てしまう病気です。
程度に差があって痛みが強い場合は早期に見つかりますが、あまり痛みが強くなかったり痛みに気づいてあげることができないままになったりすると高齢になってから問題が生じる場合もあります。通常は内科的治療への反応が悪いため、外科的な対応が必要になります。違和感があれば様子を見すぎずに病院へお連れ下さい。
治療は、内科的治療(消炎鎮痛薬と休息による温存療法)が成功することは少なく、ほとんどの症例では、外科的治療(大腿骨頭および大腿骨頸の切除)を行なうことが多い病気となります。早期の良好な機能回復のために、手術後に早期からのリハビリを行ないます。
膝のてっぺんにある「膝蓋骨」が内側あるいは外側に外れてしまう病気です。
骨の成長に伴い生後半年くらいまでに起こる先天性のものと、外傷性、二次性に起こる後天性のものとあります。先天性の膝蓋骨脱臼は小型犬の多くに見られ、特に症状を表さないまま数年以上を過ごしている場合もあります。この場合ワクチン接種や健診で見つかることもあります。程度によって一生問題なく過ごす子もいますが、加齢とともに変形性関節症を引き起こしたり前十字靭帯断裂の原因になるなどするため、症状がなくても中程度以上の脱臼の場合には、早期の手術を検討する必要があります。
小型犬の多くに見られる一方で全く問題のない個体もいるため、本来は適切な繁殖管理をすればより減らしたり淘汰される疾患なのではないかと個人的には考えていますが、今の所減る気配がないのが残念です。
中・高齢犬が急に後ろ足をつけなくなった場合に疑うことの多い病気です。
膝関節の中で最も重要な靭帯ですが、加齢性あるいはその他の疾患(内分泌疾患や免疫疾患)や生活環境(肥満、滑りやすい床等)の影響で損傷しやすくなって起こります。軽度の損傷では保存療法で症状の改善が見られることがありますが、根本的な治療には手術が必要です。
前十字靭帯の損傷をきちんと治療しないでいると、半月板損傷を引き起こし、痛みが続いたり重度の変形性関節症に陥ることになります。我慢しすぎずに早期に手術で関節そのものの状態をいい状態に保つことが大切です。
膝を含む関節の疾患は手術方法そのものはそれほど難しくないものもありますが、手術直後だけではなく5年後、10年後もその関節をきちんと使って生活できるように最高の手術をしてあげることが必要と考え、最適な施設をご紹介させていただいています。
加齢性に関節や靭帯が変性し、関節のなめらかな運動が維持できなくなることで起こる疾患です。通常変化はごくゆっくり起こり、症状も緩やかに起こるため異常に気づきにくく、気づいたときには進行してしまっているということも多々あります。
高齢の小型犬の1/3に変形性関節症や脊椎症があることが分かっていますが、ご家族がそれに気づいている割合は変形性関節症で50%、変形性脊椎症では10%程度と言われています。高齢猫ではおよそ2/3で変形性関節症や脊椎症がみられることが分かっています。猫では犬よりも室内の運動が少なく、目で見てわかる症状に乏しく気づいていないことが多いと言われています。 「動きが少ない」「高いところへ上らなくなった」「爪が伸びるようになった」といったことが症状のことが多いです。
症状がないとなかなか治療していただくきっかけが無いこともありますが、見た目に症状が出るようになったときは関節の異常がかなり進行してしまっている場合がほとんどで、 最終的には「常に痛い」「歩けない」などといった状態になってしまいます。そうなる前、身体検査で異常は見られるけど症状が出ていないという段階で適切に管理をするのが理想です。
当初は「なんか元気ない」といった症状が見られることが多く、関節疾患と気づくまで時間がかかることもある厄介な病気です。
足を痛がるといった症状が見られることもありますが、その足が一つではなくあちこち痛がったり、痛い時とそうでもないときがあったりします。痛み止めなどで症状が改善するがすぐに再発するなど、治療への反応もパッとしません。特徴的な症状としては発熱が見られ、血液検査では炎症の指標になるCRPの顕著な上昇が見られることがあります。特に跛行などの症状を示していなくても、関節液を採取して特徴的な細胞の出現が確認されるとこの病気と診断されます。
「なにか調子悪い」「足を引きずるけどそれ以外症状がない」という場合、痛み止めの処方などでダラダラと治療されたまま病気が発見されないということも結構あります。診断がきちんとされたら、免疫抑制剤の投与など内科的な管理をきちんとすることで症状のコントロールができます。しかし一生治らない病気なのでうまく付き合っていく必要があるでしょう。
加齢性に背骨の変形を引き起こす病気です。背骨の中には重要な神経が走っていますが、この神経に影響すると腰痛や後肢のふらつきが見られたり、立てなくなったりといった様々な問題が生じます。進行してから治療することは難しいため、早めにきちんと管理することが大切です。
様々な治療をする上で欠かせない麻酔。高齢だから...麻酔が怖いから...と言った理由で適切な治療が受けられない子を少しでも減らすために、麻酔のリスクを減らすための検査や麻酔知識・技術の習得にも力を入れています。全身麻酔をすることで予防できたり直したりできる病気で亡くなることがないようにしましょう。
各種診療で検査・手術をする際には麻酔が必要になる場合があります。麻酔には局所麻酔と全身麻酔があり、犬や猫では多くの場合全身麻酔を行います。
これは「痛みを感じない」のと同時に「動かない」ことが手術や検査には必要なためです。また全身麻酔をすることが犬や猫の不安や痛みを取り除くことにもなります。
「麻酔をかける=寿命が縮まる」「麻酔をしたから死んでしまった」と言うような中途半端な情報がいまだにご家族の不安を煽り、麻酔に対する拒絶反応につながっていることがあります。適切な術前評価とそれに見合った麻酔管理を行えば、むしろ麻酔無しで様々な処置をするよりもストレスや不安の軽減につながったり、麻酔をしないためにできない様々な治療を行えることで寿命が伸びたり生活の質が改善したりします。また、麻酔をするというと「じゃあついでにあれもこれも」と一度で全てやりたくなりますが、 「一度の麻酔で長時間かけて色々な処置をする」よりも「短時間の麻酔で複数回に分けて実施する」ほうが体の生理機能を抑える時間が短くてすみ、合併症が少なくすむことが知られています。必要な処置に順位をつけて、重要度の高いものから順に実施していきましょう。
残念ながら100%安全な麻酔はこの世に存在しませんが、常に最新の情報にアップデートし、研鑽を積んでできるだけ安全に手術や麻酔ができるように努力をしています。
全身麻酔を必要とする処置・手術・検査の場合には、まずそれらの処置をどの程度安全に行うことができるか、それらの処置の前に治療しなければならない疾患がないかなどを評価するために、身体検査や血液検査、必要に応じてレントゲン検査や超音波検査を行います。当院ではアメリカ獣医麻酔専門医による麻酔リスク分類(ASA分類)に基づいてリスク評価を行っています。これにより「患者の持つ危険性」と「術中に起こるかもしれない合併症」を予測し、麻酔・処置計画をたてるのに役立ちます。
当院では原則として麻酔前から麻酔中、麻酔後まで獣医師と動物看護師が常に注意深く観察し、心拍や脈拍数、血圧、体温、呼吸などの記録を取っています。必要に応じて点滴をし、心臓の動きや血圧、呼吸などを調節します。通常の麻酔の流れは以下のようになります。
麻酔後に手術や検査の不快感や苦痛を感じることなく過ごすことができ、麻酔前と同じ状態で目を覚ますことを目標にしています。患者の状態や手術の内容により手術直後〜3時間、さらに〜24時間は急変に注意が必要です。
手術・処置前に必要な評価を済ませ、最低限の侵襲で最大限の効果が、最短時間で得られる方法を検討した上で実施します。
また評価の結果当院で対応が難しいと判断したものについては、適切に対応できる施設をご紹介させて頂く場合もあります。
当院ではほぼすべての手術に全身麻酔を行っています。手術・処置内容に合わせて麻酔スタッフ、手術スタッフ合わせて3〜6人程度がチームとなって処置に当たります。
手術に使用する器具、機器、縫合糸に至るまで、妥協せずに最適なものを用いるようにしています。
避妊手術、去勢手術およびそれに準じた麻酔時間(概ね2時間程度まで)で計画される手術・処置は原則月・水・金の午前中に行い、当日中の退院としています。 これにより患者である犬猫のストレスを少しでも軽減し、術後の回復を早められると考えています。
痛みの強い手術、術後管理が必要な場合は、数日の入院を想定して手術と術後疼痛管理を実施します。長時間が想定される手術・処置は火曜日の午後に実施しています。
術後の状態がご自宅で十分管理できると判断された段階で、退院となります。
ご家族に術後の状態をご説明し、必要に応じて手術中の様子についてご説明いたします。ご自宅での食欲・元気の有無のチェック、投薬などが十分にできない場合は入院下で管理させて頂く場合もあります。
傷をなめたりかんだりしないようにカラーを装着するなどし、一週間ほどで傷のチェックにお越しいただきます。術後に特別な処置など必要になる場合は退院時にご説明いたします。
すぎうらペットクリニックは大切なご家族の健康を守ります。ぜひお気軽にお問い合わせ下さい。