冬になり、北海道では暖房が欠かせなくなりました。この時期は室内が非常に乾燥しますが、この乾燥する季節はアトピー性皮膚炎の犬には厳しい季節です。
アトピー性皮膚炎は遺伝により皮膚表面の角質層のバリアに障害が出る病気です。正常な皮膚ではこのバリアが体内の水分の蒸散を防ぎ、同時に皮膚表面の細菌やアレルゲンの体内への侵入を防いでいます。
バリア機能の低下した皮膚では色々と不都合が生じますが、端的な症状は「痒い」こと。ただし皮膚が痒くなる病気には色々ありますから、それらを鑑別する必要があります。
今のところ「アトピー性皮膚炎である」ことを確実に診断できる検査は存在しないため、痒みを起こす病気を一つずつ除外してそれでも痒みが残る場合を「アトピー」と診断することになります。
アトピーはそもそもが「皮膚の構造が(目に見えないレベルで)異常」なので、残念ながら「治る」ことはありません。しかし皮膚のバリアをできるだけいい状態にすることで、症状をコントロールすることはできます。治療の目標は「それほど痒くない」状態を「最小限の薬で」維持することです。
アトピーのコントロールのためには、皮膚表面の刺激物(過剰な皮脂と常在菌をふくむ細菌)を適切に取り除き、皮膚の乾燥を防ぐことが必要です。そのためにはシャンプーと保湿剤が大切です。
シャンプーは「皮膚表面の汚れを適切に除去し」「皮膚に刺激にならないもの」である必要があります。もともと犬の皮膚は人の皮膚より薄く、さらにアトピーの皮膚はそれよりも刺激に弱いため、有害な成分が入っていてはいけません。それでありながら犬の皮脂は頑固な油汚れなので、うまくその汚れを除去する必要があります。
洗浄力が強くても、皮膚への刺激が強く害になってしまうものがたくさんあります。また「低刺激」でも洗浄力が弱く皮膚の表面に汚れが残っては意味がありません。また、多かれ少なかれシャンプー自体が「刺激がゼロ」ではありませんので、洗った後にきちんとすすいで皮膚の表面に残らないようにすることが必要です。そのためリンスインのような保湿成分を含んだものは、皮膚表面にシャンプーの界面活性剤が一緒に残ってしまうため避けるべきです。
当院では、アトピー性皮膚炎のコントロールにはこれらの要求を高いレベルで満たすためのシャンプーや保湿剤をお勧めしています。またそれらをできるだけ効果的に使うための洗い方についても、詳しくご説明させていただいています。アトピー性皮膚炎の症状はここに違いますし季節の影響も受けますが、うまくいけばシャンプー療法だけでもコントロールできる場合もあります。
ただ、残念ながらシャンプー・保湿だけで年中良い状態を保つことは難しい場合が多く、このほかに食事やサプリメント、お薬をうまく組み合わせて、痒みの少ない生活を送れるようにすることが重要です。
アトピー性皮膚炎は治らないだけではなく、適切に管理しないと時間の経過とともに皮膚の状態は悪化し、痒みが強くなったり、痒い場所が増えたり、痒い時期が広がったりします。「かゆみどめ」で痒みをとってはい終わりではなく、長い目で見た皮膚のコントロールが大切になります。